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「走れメロス」は名キャッチコピーの連続。佐藤可士和&林修先生の読書。

 2015/07/24     

meros

メロスは激怒した。

「キャッチコピーが並んでる。
物語というよりも表現として見ています。
掴み、人の気持ちの持っていきかたがとてもおもしろい。」

佐藤可士和が、走れメロスから選んだ一節です。

BS TBSで毎週木曜23時から放送されている、
「林修・世界の名著」
7月23日のゲストはクリエイティヴ・ディレクターの佐藤可士和さんでした。

佐藤可士和さんは、ユニクロやセブンイレブン、SMAPのアルバムなど様々広告を手がけています。
広告というか、企業のコンセプト、根本から携わっていますから、やっぱりディレクターなのでしょう。

今日、取り上げられた本は、
「走れメロス」太宰治

ほとんど人は、小学生のときに教科書で読んだのではないでしょうか。

誰もが読んだことのある作品でも、読む人の視点によって大きく解釈は変わり、新たな発見があるものです。

走れメロスは冒頭がすごい

メロスは激怒した。

林:冒頭破壊力偏差値は80です。
冒頭で終わっている。リンスインシャンプーwithコンディショナーです。

佐藤:全部切り落としてデザインしている。
こういうクリエイションが好きです。
マルセル・デュシャンみたいな。

※マルセル・デュシャン
フランスの美術家。「泉」という作品が有名。
便器にリチャード・マット (R. Mutt)と書いただけの作品。

佐藤:最初で終わっている。これでいいじゃん。みたいな。
現代美術はここで始まって、ここで終わった。

メロスはめちゃくちゃな男である

感動の友情、必死に走るメロス。
と思いきや、よくよく注意して読んでみるとそうでもありません。
これが太宰の真髄。

親友を人質に(事後報告)

この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

林:僕は、がたがた言わずにお前走れよ。って思っていました。
距離は十里と書いてあります。片道40kmだから、往復で80km。3日あったら楽勝((笑))
それなのに、ガタガタ言って、色々な目に合う。メロスはちょっとおかしい。
勝手に自分の親友を人質に差し出してしまうし、めちゃくちゃです。
佐藤さん、セリヌンティウスの立場ならどうしますか?

佐藤:2年も会ってない友達なら、普通に嫌ですよ。というか、そんなこと言われた瞬間に嫌いになりますよ。

途中で寝ちゃう・・・

正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉かな。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

林:なぜこんなことになってしまうのか、初めはわかりませんでしたが、あるときわかりました。
それは、激怒しているから。
激怒というのはこういうものだ。と私はメロスを通じて知りました。

「走れメロス」は友情の話?本の読み方

佐藤:僕は小学生のときに学校の先生に、これは友情の話だと言われた。でも違いますよね?
クリエイティブは、視点がなにより大事
視点を規定してはいけません。

文学テクスト入門

たしかに自由な視点は大切ですが、誰しも簡単に自由になれる訳ではありませんね。
林先生が参考になる本を紹介しています。

冒頭の一文のなかには、しばしばその物語がかたちづくる世界がミニチュアとして描き出されいる場合が多いのではないだろうか。

まさに、「走れメロス」がこれですね。

文のリズム

佐藤:冒頭のインパクトを持続して読める。
変わったリズム感。濃度が濃い文章。

私は、今宵、殺される。
殺される為に走るのだ。
身代りの友を救う為に走るのだ。
王の奸佞かんねい邪智を打ち破る為に走るのだ。
走らなければならぬ。
そうして、私は殺される。

メロスは黒い風のように走った。

「黒い」に感情が出ている。

メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。

「死んだんじゃないの?」っていう。

「走れメロス」は、優秀なキャッチコピーの連続として読むことも出来ますねえ。

クリエイティヴ・ディレクターと読書

佐藤:芸術は解釈を楽しむもの。
小学生なのか、大人になってからなのか、読む時によって感じ方が変わる。
それに耐えうるからこそ、名作であると思います。

佐藤:私はコミュニケーションに関わる仕事をしています。
人を惹きつける表現、心を掴む表現は何かをいっつも考えています。
企業のスローガン、キャッチコピー、ビジュアルを集約する仕事です。本質はなんだと。
一言で、一枚の絵で、ひとつの記号で全てを表現できないかと。

メロスが寝ちゃうところとか、人間の本質をズバッと切り取っているところがすごい。

物語としてというよりも、表現として、いう意識があるかもしれません。
「掴み」とか、気持ちの持っていきかたとか。ディレクター目線で読んでいる気がします。

佐藤可士和&林修が選ぶ名場面は?

「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若もし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯うなずき、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。

2人ともに、
『メロスが裏切りを告白し、自分を殴れと迫るシーン』
を選びました。

佐藤:太宰の思う壺ですねえ。

林:自分が悪いといいつつ、「夢」だ言う。意識した、とか思った、とか言わない。
これが太宰のすごいところ。
いっぱつ殴らせれば、チャラになる。ずるいよね(笑)
セリヌンティウスの味わった恐怖って、一発殴るじゃ済まないですよ。

走れメロス誕生の秘話?

太宰が弟子の檀一雄にいった言葉。

ある日、太宰は井伏鱒二(師匠)のところへお金を借りに行く、といって家を出ました。
しかし、待てども待てども、帰ってこない。
弟子の檀一雄は、しびれを切らして迎えに行ったそうです。

そしたら、太宰と井伏は2人仲良く将棋に興じている。
驚き、戸惑う檀一雄に向かって太宰は言いました。

『待つのが辛いか、待たせるのが辛いか、どっちだろう?』

オマージュ?

井伏鱒二 「山椒魚」という作品の冒頭は、

山椒魚は悲しんだ。

林:ひょっとして?
才能のある芸術家はそういうことが出来てしまうのかもしれませんね。

佐藤:正面から行くように見せて、全部交わしている。想像もしない横からのパンチが出てきて、びっくりするような視点を提示している。山椒魚もオマージュとして彼なりのメッセージがあるのかもしれません。

林:デザインとしても優れている作品ですね。

佐藤可士和が「走れメロス」を一言で

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おわり。

他にも面白いゲスト、興味深い本がたくさん登場する良い番組です。
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